【医師監修】疲れと体臭は繋がっている⁉ “疲労臭”とは

仕事やプライベートで人と会う時や、電車やエレベーターなどの狭い空間で気になるのが自分の臭い。体臭やタバコ臭などによって周囲に不快感を与える行為には『スメルハラスメント(スメハラ)』と名前がついてしまい、誰もが他人の臭いに厳しい時代になりました。

また近年では、PATM(パトム)という、周囲の人にくしゃみ等のアレルギー症状を引き起こす体臭の研究(※)も進んでおり、ますます臭いに神経質になっています。

いつの間にか自分が臭いの“加害者”になってしまう。それが現代の体臭問題なのです。

そこで今回は、そんな体臭問題の中でも3大体臭といわれる「ミドル脂臭」「加齢臭」「汗臭」とは発生由来のことなる、第4の体臭“疲労臭”について、その発生のメカニズムから疲労臭が出やすい人の特徴、対策方法までを詳しく見ていきましょう。

川上裕司, et al. "皮膚ガス測定および鼻腔内微生物検査に基づく  PATM に関する考察." 室内環境 21.1 (2018): 19-30.

  • 直田亨
  • ●この記事を書いた人●

    グリーンハウス株式会社

    直田亨

    ライター歴10年。出版社で10年、病院広報で10年勤務後、健康食品業界に転職。

3大体臭とは

体臭には、発生由来の異なる「ミドル脂臭」「加齢臭」「汗臭」という3大体臭がありますが、これらの体臭は毎日の生活習慣の中で対策が可能です。

体臭の発生部位-ミドル脂臭、加齢臭-

『表面反応由来』の “ミドル脂臭”と“加齢臭”

ミドル脂臭は主に 30~ 50歳男性の体臭です。汗に含まれる乳酸が皮膚常在菌に分解されて発生する、揮発性成分の「ジアセチル」。この成分が皮膚表面で皮脂由来の脂肪酸と混ざって「古い油」や「酸っぱいチーズ」に例えられる独特の臭いとなり、後頭部から首筋を中心に発生します。

加齢臭は中高年以降の男女ともに発生する特有の体臭。皮脂に含まれる脂肪酸の一種、パルミトオレイン酸が酸化・分解されることで原因物質「2‐ノネナール」が発生します。頭部や首まわり、背中など、皮脂分泌の多い部位に発生するこの臭いは、「古本」「ロウソク」「枯草」に例えられます。

体臭の発生部位-汗臭-

『汗腺由来』の“汗臭”

汗の出る汗腺には、全身に分布して体温調節のために水分主体の汗を出す「エクリン汗腺」と、腋や陰部などの限られた部位に分布し、脂質やたんぱく質を含む汗を分泌する「アポクリン汗腺」の2種類があります。

「エクリン汗腺」から出た直後の汗はほぼ無臭ですが、皮膚常在菌が汗に含まれる乳酸などの成分を分解することで、酸っぱい臭いやツンとした臭いとなります。 一方、「アポクリン汗腺」から分泌される脂質やたんぱく質を含む汗も、出た直後の臭いは弱いですが、皮膚常在菌に分解されて「酸っぱい」「スパイシー」「動物的」などと表現される、濃くて強い汗臭となります。

年代による体臭変化

*マンダムの資料を基に改変

皮膚表面を洗っても落ちない! 第4の体臭“疲労臭”

やっかいなのは、洗えば落ちる3大体臭とは発生由来が違う、第4の体臭・疲労臭で、臭いに気づいたからといって洗っても落ちない種類の体臭なのです。

疲労臭は“血管から皮膚にしみ出る”臭い

疲労臭は、皮膚表面に原因物質がある「加齢臭」や「ミドル脂臭」、「汗臭」とは違い、原因物質が血管から肌表面に直接しみ出してくる『血管由来』の体臭なのです。つまり、入浴して体を隅々まできれいに洗っても臭いを防ぐことはできない、そんなやっかいな体臭が疲労臭なのです。

疲労臭発生のメカニズム

疲労臭発生のメカニズム

疲労臭はツンと鼻をつくような臭いが特徴で、その正体はアンモニアです。

アンモニアは、小腸や大腸でタンパク質を分解する際に生み出すアミノ酸をもとにして、肝臓でアミノ酸代謝が起きる過程で発生します。元々は毒性の強いアンモニアではありますが、正常であれば肝臓の尿素回路(オルニチン回路)という機能で無毒な尿素に分解されて尿として体外に排出されるため、強い体臭にはなりません。

しかし、精神的なストレスや過度な肉体的負荷によって疲労している時には、肝臓の機能も低下。肝臓で処理しきれなかったアンモニアが体内に残ることで、刺激のあるツンとした臭いの疲労臭が全身から発生するのです。とりわけ、血管が張り巡らされて汗もかく「足裏」に疲労臭が出やすいのです(特に足の裏にある母指球〔親指の付け根にあるふくらみ〕やかかと部分)。

お風呂上がりに体臭チェック

セルフチェックの方法は、お風呂上がりに嗅いでみること。体をきれいに洗った直後にも関わらずツンと臭うのであれば、入浴では洗い流せない疲労臭が出ている疑いがあるので注意が必要です。

ストレスでアンモニア臭増加

さらに、疲労臭は年齢と関係がある加齢臭やミドル脂臭とは違い、疲れが溜まれば若年層であっても発生する可能性があります。

文字通り「疲れた日」「忙しい週末明け」などで一時的に強くなる傾向があるため、肉体的な疲労はもちろん、強い心理的ストレスを受け続けると自律神経の交感神経が優位となり、皮膚アンモニア量が増加して疲労臭が高まったという研究結果もあります。

また、疲労臭は体や内臓の疲れが原因のため、汗をかく機会が多い夏場に注意が必要な汗臭とは違い、季節に関係なく年中発生する可能性があります。

  • 消化器病専門医 工藤あき

  • 疲労臭は血管から皮膚に直接出てくるので、皮膚の表面を洗っても消えないという厄介な臭いです。しかも、刺激のあるツンとした臭いという特徴があるので、周囲にも気づかれやすいという困った点もあります。
    ただし、疲労臭が発生する特徴を知っておけば、臭いの対策もできますよ!

  • 消化器病専門医 工藤あき

疲労臭を発しやすい人の特徴

特徴1. お酒をよく飲む

お酒をよく飲む

日常的な過度の飲酒はアルコールの分解によって肝臓に負担をかけるので、アンモニアを尿素に分解する肝機能が落ちます。分解しきれなかったアンモニアは血液に乗って全身を巡り、疲労臭が発生しやすくなるので注意が必要です。

多量の飲酒で高まる肝硬変リスク

Gmel, Gerrit, et al. "Estimating uncertainty of alcohol-attributable fractions for infectious and chronic diseases." BMC Medical Research Methodology 11.1 (2011): 48.

  • 消化器病専門医 工藤あき

  • アルコールの摂取量が多い人は肝硬変になりやすいため、より疲労臭が発生しやすくなります。2~3日飲酒を続けたら、1日は休肝日を設けるのが理想です。
    また、1日の飲酒量を飲み過ぎないように、ガイドライン(※)等を参考にして工夫しましょう。

    厚生労働省『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』

  • 消化器病専門医 工藤あき

特徴2. 肉や魚をよく食べる

肉や魚をよく食べる

そもそもアンモニアは、タンパク質やアミノ酸を体内で利用・分解する過程で必ず発生する『窒素の廃棄物』です。肝臓で処理できない量のアンモニアを生み出さないためにも、タンパク質の摂取は適量に留めましょう。『日本人の食事摂取基準(2025年版、厚生労働省)』によると、1日のタンパク質摂取適量は、体重1 kgあたり 0.8g程度とされています。

  • 消化器病専門医 工藤あき

  • 昨今は筋力トレーニングと合わせてプロテインを摂取する方も多いですが、その主成分はタンパク質。
    疲労臭予防の観点からも、過剰摂取は厳禁です!

  • 消化器病専門医 工藤あき

特徴3. 普段あまり運動しない

運動不足

運動不足の人も注意が必要です。 筋肉には、アンモニアをアミノ酸の一種であるグルタミンに変換して、一時的に蓄える機能があります。しかし、運動不足で筋肉量が減ると、この“貯蔵タンク”が小さくなってしまい、アンモニアが血管に溢れやすくなってしまうのです。

特徴4. 心配性で緊張しやすい

緊張する

疲労臭には「強い心理的ストレス」も大敵です。 緊張などでストレスがかかると、体は「非常事態」だと認識して、“ストレスホルモン”ともいわれるコルチゾールを分泌します。
このコルチゾールは、血糖値を保とうとしてタンパク質である筋肉を分解して、エネルギー源になるアミノ酸を作ろうと働きます。その結果、肝臓でのアミノ酸代謝でアンモニアが増えて疲労臭へと繋がってしまうのです。

特徴5. 夜更かしが多い

夜更かし

不規則な生活リズムで睡眠不足になると、体には疲労臭を引き起こす悪影響が現れます。
●“ストレスホルモン”である、コルチゾールが増加
●腸内環境の乱れで、腸内のアンモニア発生量が増加

このように、しっかりと睡眠がとれずに疲労回復が滞ると、疲労臭が加速してしまうのです。

疲労臭チェックリスト

  • 消化器病専門医 工藤あき

  • これらの『疲労臭チェックリスト』の項目はどれもついついやってしまいがちなものばかり。 つまり、疲労臭の原因はちょっとした「生活習慣の乱れ」の積み重ねといっても過言ではないのです!

  • 消化器病専門医 工藤あき

疲労臭対策!

日々の仕事や家事、人間関係などで溜まる疲労やストレスは、「生活習慣の乱れ」の積み重ねとなって、単なる体のだるさだけでなく疲労臭として現れます。 そこで、疲労臭の原因を理解した上で、運動や睡眠、食事など、日常生活で実践できる具体的な対策方法を詳しく解説します。
これらを取り入れることで、体臭を抑え、より快適で爽やかな毎日を手に入れることができます。

1.毎日、軽い運動を心掛ける

毎日の軽い運動

ジョギング等の適度な運動で、疲れが残らない程度の運動を継続して行うことが大切です。ストレス解消になりますし、アミノ酸を一時的に蓄える“貯蔵タンク”の役割を持つ筋肉の維持にもつながります。
ただし、筋肉に疲労が残るほどの激しい運動は、アンモニア発生を促してしまい逆効果なので要注意です。

2. 良い睡眠をとる

良い睡眠をとる

質の高い睡眠は疲労臭を抑えるためにとても重要です。
就寝の90分前に湯船につかると体温が上がり、その後、体温の自然な低下で入眠しやすくなります。また、起床後すぐに日光を浴びることで体内時計がリセットされ、睡眠リズムが整います。これにより疲労回復がスムーズになり、老廃物の排出や代謝が促進され、疲労臭の軽減につながります。

3. 食事で肝臓の機能や腸内環境を整える

しじみ

肝機能を活性化する食べ物

アンモニアを尿素に変換し、無毒化する過程の中で肝臓で使われるのが「オルニチン」。疲れが感じられた時には特に「オルニチン」が多く含まれる食べ物を取り入れることでアンモニア処理をサポートしてくれます。

しじみ

しじみには、食品の中でも100g中10.7~15.3mgとオルニチンが多く含まれています。有限会社ピコデバイスによる試験によれば、オルニチンを2,400mg摂取すると、運動負荷によって発生した汗及び皮膚ガス中のアンモニア量の増加が有意に抑制されることが示されています。

食品に含まれるオルニチン量

Webサイト:キリングループ 協和発酵バイオの健康成分研究所より

腸内環境を整える食べ物

現在、進んでいる疲労臭の研究(※)から、ビフィズス菌をはじめとした善玉菌を増やすことは腸内環境改善という観点から疲労臭の軽減にも有効であることが分かってきています。さらに、オリゴ糖など善玉菌のエサとなって増殖を助ける成分(プレバイオティクス)を摂取することも効果的という研究結果が出ています。

SEKINE, Yoshika, et al. "Prebiotic effect of lactulose on ammonia emanating from human skin surface." Journal of Japan Association on Odor Environment 51.6 (2020): 338-345.

ヨーグルトと牛乳

ヨーグルト

ビフィズス菌が含まれている食品の代表格。ただし、全ての商品にビフィズス菌が含まれている訳ではないので、購入時には表記の確認が必要です。

牛乳

牛乳に含まれる乳糖から作られるオリゴ糖の一種・ラクチュロースは、分解されずに大腸まで届いてビフィズス菌のエサとなり、増殖を助けてくれます。

疲労臭に対する、オリゴ糖とビフィズス菌の有効性を確認!

ビフィズス菌は腸内で短鎖脂肪酸という酸性物質を産生し、腸内環境を緩やかな酸性にしてくれます。すると、アルカリ性であるアンモニアの腸での産生が抑制され、疲労臭が抑えられると考えられています。

オリゴ糖はビフィズス菌を増やす

※データ出典:室内環境学会学術大会講演要旨集, 2019,A-06, p1-2

ビフィズス菌が多いと疲労臭が抑えられる

※関根ら、においかおり環境学会誌(2020)を基に作成

まとめ

いかがでしたか?

洗えば落ちる体臭とは発生由来が異なる『疲労臭』は、血管由来で臭いの原因であるアンモニアが血管から直接皮膚表面にしみ出してくる厄介な体臭です。体内でのアンモニア発生を抑えるためにはタンパク質を控え、腸内環境を整えること。そして、お酒を控えたりオルニチンを摂取したりすることで肝臓のアンモニア分解機能を維持することが大切です。

体の内側から発生する疲労臭には、“内側でのアプローチ” を継続して行うことを心がけましょう!

  • 消化器専門医 工藤 あき
  • ●監修者●

    消化器病専門医

    工藤 あき

    ■経歴■
    消化器内科医として腸内細菌・腸内フローラに精通し、腸活×菌活を活かした美肌やエイジングケア治療にも力を注いでいる。フジテレビ『ホンマでっか!?TV』やTBS「ひるおび」等、テレビ各局のコメンテーターから、雑誌『Tarzan』や『ESSE』等の記事監修、美容や食生活に関する書籍の執筆まで、幅広いメディアで消化器官に関連した情報をわかりやすく発信。
    その美肌から「むき卵肌ドクター」の愛称で親しまれている。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。
    プライベートでは2児の母。


    ■資格・所属学会■
    日本内科学会認定医
    日本消化器病学会専門医
    日本消化器内視鏡学会専門医

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