健康にいいこと通信8月号 現代人はミネラル不足。身体に必要な「塩」を紐解く

“美味しい”を探してたどり着いた塩

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福岡県糸島市
新三郎商店株式会社 代表取締役(またいちの塩) 平川 秀一さん

海水から得られる塩。料理の味を左右する重要な調味料の一つです。今回は、福岡県糸島市の製塩所『工房とったん』で、海水を汲み上げて塩づくりを行っている平川秀一さんを訪ねました。手作業でゆっくりと製塩していく工程や、〝美味しい〟塩をつくるために大切にしていること、塩が料理にもたらす作用などについてお話を伺いました。

料理に使う塩を探し求めて料理人が始めた塩づくり

ピシャン。ピシャピシャ、ピシャン。
青空の下の立体塩田に、何本もの竹が逆さまに吊り下げられています。竹の枝を伝って上から下へ海水が絶え間なく流れ、吹く風が、地に落ちる水音を不規則に響かせます。ここは、糸島半島の岬の突端にある製塩所『工房とったん』。背後には緑濃い森が迫り、すぐ先には玄界灘が広がる場所で、海水から流下式の立体塩田で濃度を高め、鉄釜で焚く製法で塩をつくりだしています。
工房を造ったのは、新三郎商店株式会社代表取締役の平川秀一さん。料理人として、自分が使いたい塩をつくりたいと考えたことがきっかけです。平川さんは、「美味しい料理を作り、食べていただいた方に喜びを感じてもらいたいと考えてきました。その中で実感していたのが塩の重要性でした。料理の下ごしらえから仕上げまでに、どのような塩をどのタイミングで使うかによって、料理の味が変わるからです」と話します。
ある製塩所を訪ねた平川さんは、そこでつくられた塩を使った時、それまで使っていた塩とのあまりの違いに驚いたそう。塩への興味が高まり、各地の製塩所を見て回り、塩づくりを学びました。自ら塩をつくろうと決めて出会ったのが現在の地です。生活排水が入らない環境にあり、良質な海水が得られ、日当りも良い。塩づくりに必要なものが全て揃っていたと言います。「私たちもストレスを感じない環境で、自然に寄り添った塩づくりをしたいと思いました」と平川さん。

ミネラル豊富で良質な海水を自然の力と職人の手で塩に

原材料となる海水は、製塩所から50mほど沖合で汲みます。工場長の川上信介さんは、「海が荒れていない時、満潮時から潮が引き始めるタイミングで、海底の砂を巻き上げないよう汲み上げます」と教えてくれます。人の手が入っていない山の樹木などからもたらされるミネラルが豊富な海水を汲むことがこだわりです。海水が含むミネラルは場所によって異なり、仕上がった塩の味にも影響するからです。汲んだ海水は、10日ほど立体塩田で循環し、太陽光と風の力を借りてゆっくり濃縮させます。
塩分濃度が高くなってくると、鉄釜に移して薪で焚く作業です。大きな釜で2日間、小さな鉄釜でさらに1日焚きます。鉄釜と薪を使うのも、塩の仕上がりに関係するためだと川上さん。「ステンレスやアルミの釜だと、仕上がった時の味がとんがっている感じがします。鉄釜で薪を使うと、柔らかくてふわっと軽い感じの塩になるんです」と、全ての工程と、そこで使う道具にも意味があると教えてくれます。薪は、杉や檜、松など、主に住宅などの廃材を使っています。季節はもちろん、日ごとに変わる適した火加減を見極めるのも重要な仕事。職人の五感と勘がものを言います。

一つ一つの工程を丁寧に素材の味を引き出す塩づくり

海水からつくることができる塩の量は、「一般的なお風呂1杯分で、ゴルフボール3〜4個程度」と川上さん。鉄釜の周囲の温度は、夏になると50度近くに。汗だくになりながら釜の中をかき混ぜる作業が続きます。釜の中をのぞくと、キラキラと光っています。平川さんが網を入れてかき混ぜ、すっとすくうと、真っ白な結晶が。「少しずつ結晶ができ始めます。最初にできる結晶には、味を左右するカルシウムが含まれています。次にナトリウム、カリウム、最後にマグネシウムが出てきます。カリウムとマグネシウムには苦みがあるため、どのくらい取り除くかを調整するのも職人の技の一つ。川上さんは、「うちの塩は、含まれているミネラル分のバランスが良いから美味しいのだと思います」と胸を張ります。
平川さんは今後、自社の果樹園で育てた果樹を使った塩づくりを考えています。「塩は鉱物ですから、香りが付きません。果樹と合わせることで香り付けができたら」と言います。平川さんが目指している塩は、素材と食べる側を繋ぐもの。「主張し過ぎず素材の味を引き出し、すーっと身を引いていく塩がいいですね。なかなかゴールは見えてきませんが、これからも楽しみながら続けていきたいと思っています」と話してくれました。

地図画像
製塩所『工房とったん』
福岡方面から国道202号線西町交差点を右折し、県道54号線を芥屋方面へ直進します。芥屋郵便局先の点滅信号を左折して岐志漁港へ。右折して海沿いの道を約5km進みます。
ゴハンヤ 『イタル』
福岡市方面から西九州道(福岡前原道路)前原インターを下りて右折します。T字路を右折して道なりに1.5kmほど進むと、右側に黒い駐車場案内が見えてきます。
■工房とったん/福岡県糸島市志摩芥屋3757
■イタル/福岡県糸島市本1454
☎092-330-8732(代表)

一番結晶の味を堪能できる
〝しおをかけてたべるプリン〟

カスタードプリンの上に、一番結晶(※)の花塩からできるプリン専用の塩「潮の粒」を乗せ、カラメルソースをかけていただく名物のプリン。卵は地元・糸島の養鶏場で朝採りしたもの。牛乳は佐賀県の低温殺菌牛乳を使用しています。一口ごとに、潮の粒のザリッとした食感と直後に広がる塩と、混ざり合っていく濃厚なプリンの味が絶妙な逸品です。『工房とったん』で購入することができ、海を眺めながらじっくりと味わえます。

※一番結晶=海水を炊き始めて最初にできる、表面に浮かんだ花のような結晶のこと

塩を作っている料理人に聞く 塩と料理の美味しい関係

素材の味を引き出して調えるー。塩は、毎日の調理に欠かせない調味料です。
料理人でもある「またいちの塩」の代表・平川秀一さんが「美味しい」を追求して気づいたのが、塩の持つ重要な役割でした。
塩が、仕上がりの料理の味を大きく変えることが顕著にわかる料理をご紹介します。

料理ごとに使い分け、素材の味を引き出す

「素材と食べる側を繋ぐのが塩。素材は同じでも、塩で料理の味は変わります」と話す平川さん。塩が持つ力を感じてもらいたいと、食事処『ゴハンヤ イタル』を開きました。地元産の新鮮な素材の味を、塩を媒介にすることで引き出し、より美味しくなることを実感できる料理を提供しています。
そのため、数種類の塩を用意し、料理ごとに最も合う塩を使うのがこだわりです。炊塩は料理全般に、マイルドな辛みの焼塩は天ぷらや刺身に。オリーブオイルと相性の良いハーブソルトはサラダやパスタに。おむすびには、炊塩やあら塩などをブレンドした専用の塩を使用。すると、冷めても美味しい塩むすびになります。
最後に平川さんは、「ご家庭でも何種類かの塩を揃え、料理に合わせて使い分けると食事がもっと楽しくなるかも知れません」と話してくれました。

「ゴハンヤ イタル」の名物メニューの数々。

知っているようで知らなかった塩の常識と活用術

身近な調味料でありながら、原材料や製造法となると、知らないことも多い塩。日々の料理におすすめの塩の種類や、使い方の注意点などについて、調味料ソムリエプロのMICHIKOさんに伺いました。

お話を聞いた人 MICHIKOさん

お話を聞いた人 MICHIKOさん

調味料ソムリエプロ、野菜ソムリエプロ、調理師、料理研究家、食養生士、カレーマイスター。クッキングサロン「食あとりえ ひめ亭」&「メディカル食養生」主宰。活動のテーマは「食」と「健康」。

塩の種類

海 塩

海塩

海水から作られる塩です。地球の表面積の約70%が海ということを考えると、ほぼ無限に調達できるといえます。
世界の塩のおよそ3分の1が海水から作られますが、同じ海塩でも海外と日本では製法も異なります。日本で作られる塩のほとんどがこの海塩です。主な生産国は中国、アメリカ、インド、オーストラリア、メキシコ、フランス、日本など。

イオン膜立釜塩
イオン膜で海水を濃縮し、立釜で結晶化させる大規模な製塩法で作られる。日本の最も標準的な塩で汎用性が高いが、ミネラルの含有量が少ない。食塩・並塩など。
天日塩
海水を塩田等に導き、太陽の熱と風で蒸発させて結晶化させた塩。
天日平釜塩
海水を天日や風力などで濃縮し、平釜で炊いたもの。にがりを多く残しているものが多い。
蒸発塩=パウダー塩
海水の水分だけを噴霧などにより蒸発させ、結晶させた塩。食塩より塩分が低く、ミネラルバランスに優れている。
藻塩
日本で古く(弥生・古墳時代)から作られてきた、海藻から作られる塩のこと。海藻本来が持つ旨み成分に加え、海藻に含まれるヨードやカルシウム、マグネシウムなどの各種ミネラルが含まれていることで、まろやかな旨味、甘味、口当たりの良さのある塩。

岩 塩

岩塩

地殻変動で海水が陸に閉じ込められ、長い年月をかけて水分が蒸発し、結晶したものです。世界の塩のおよそ3分の2が岩塩から作られたものですが、日本にはありません。
塩の純粋な結晶は透明です。さまざまな色のついた岩塩は、中に含まれている鉱物で色が決まります。食用にならず、鑑賞用、入浴用等もあります。主な生産国は中国、アメリカ、ドイツ、カナダ、フランスなど。

ミネラル分を含んだ塩ミネラル分を
含んだ塩

原塩を溶かして塩化ナトリウムの含有量を99%以上に精製した高純度の塩である食塩(精製塩)は、サラサラとしていて水に溶けやすく、料理の時にも扱いやすいという特徴を持っています。また、大量生産できるため値段も安く、品質も安定していますが、生産される過程でミネラル分も取り除かれています。ミネラルが含まれていない精製塩を摂りすぎると、血中のナトリウムの濃度が高くなり、のどの渇きを覚えて水分を多く摂ってしまいます。それゆえに血液の量が増えて、血圧が上がってしまい、高血圧になる危険が出てきます。また、ナトリウムなどを分解するために、ミネラルが使われます。精製塩を過度に摂ることは、体にとっては負担になり、体のバランスが崩れる結果になるといえるようです。
一方、汲み上げた海水をそのまま天日で乾燥させる天日塩や、濃縮した海水を煮詰めて作る平釜塩など、自然塩や天然塩と呼ばれるものは、大量生産はできないものが多いために生産量も少なく、手間暇がかかるために値段が高い傾向にありますが、塩化ナトリウムの含有量は精製塩より低く、マグネシウムやカリウム、カルシウムなどのミネラルを含んでいます。

NaCl 塩化ナトリウム、Mg マグネシウム、K カリウム、Ca カルシウム

塩の使い方塩の使い方

塩は計量をする

塩は、しっかり計量をしてから使いましょう。ただし、塩の種類、粒の大きさ、サラサラ具合によりカサが変わり、同じ小さじ1でも、塩味の効き目が変わってくるので、自分が使う塩の塩加減を覚えましょう。

塩も地産地消

素材がとれたところ、作られたところの塩が合います。塩も地産地消です。食材の持つ特徴と塩の持つ特徴を合わせることが大切です。

魚 類
その魚が取られたところで作られた海塩等
肉 類
山でとれた岩塩等
野菜類
野菜に合う旨みが入った海塩等

塩使いはタイミングも大切

どのタイミングで塩を使うかも大事なポイントです。

  • 炒め物、焼き物などで、塩の美味しさを利かせたい時は最後に。
  • 食材に塩分を浸透させたい煮物などには、早めに塩を使用。
  • 調味料は「さしすせそ」の順番で。

砂糖より先に塩を入れてしまうと素材に味が入らず、素材が固くなります。

  • 魚に塩を振る

    ・青魚は、塩をして約15分後、水分をふき取り、再度塩をして焼くと、魚の中にある生臭みのある水分が抜け、魚の肉質が感じられる。
    ・白身魚は、焼く直前に塩を振ると、加熱したときに表面のたんぱく質を素早く凝固させ、旨味を閉じ込めてくれる。

    魚に塩を振る
  • 肉に塩を振る

    ・ステーキには、焼く直前に塩を振ると、表面にたんぱく質が固まり、旨みが逃げない。
    ・かたまり肉(1kg)には、1時間くらい前に塩をもみ込むと、浸透圧で塩味が中までゆき渡る。

    肉に塩を振る

夏に不足しがち、でも過剰摂取は避けたい 上手につきあう「塩分」と「ミネラル」

素材の味を引き出して調えるー。塩は、毎日の調理に欠かせない調味料です。
料理人でもある「またいちの塩」の代表・平川秀一さんが「美味しい」を追求して気づいたのが、塩の持つ重要な役割でした。
塩が、仕上がりの料理の味を大きく変えることが顕著にわかる料理をご紹介します。

塩分の控え過ぎはミネラル不足をまねく

毎日暑い日が続くと、心配になるのが「熱中症」。こまめな水分補給とともに大切になってくるのが塩分補給と言われていますが、同時に「減塩」の風潮もまだまだ根強く、厚生労働省が指定する一日の塩分摂取目標量は、男性が8 未満、女性が7 未満となっています。
一食あたりで摂取する塩分は考えている以上に多く、味噌汁や漬物の他、醤油などの調味料を合わせるとあっという間に数値が上がります。かと言って、塩を控え過ぎる食事は味気ないもの。そこにまた、別の問題も浮上してきます。健康維持に欠かせない「ミネラル」が不足してしまうのです。

そもそも、ミネラルとは?

身体の4%を占める、炭素を含まない無機質のことを言います。ミネラルはビタミンと力を合わせて「補酵素」として代謝の働きを高めます。不足するとビタミンや酵素も効果を発揮することができません。健康維持に欠かせないミネラルを「必須ミネラル」といい、全部で16種類あります。その中でも、1日に100mg以上の摂取が必要なものを主要ミネラル、100mg未満必要なものを微量ミネラルと言います。
塩は本来、主成分のナトリウム以外にも、カルシウムやマグネシウム、カリウムなどのミネラルを含む物質であり、いずれも主要ミネラルに分類されます。ミネラルは体内で作り出せないため、食品から摂取する必要があります。そのため、様々なミネラルを含んだ塩を場面に応じて適量摂取することが健康維持には欠かせないのです。

体内でのミネラルの働き

塩は体内に吸収された後にナトリウムイオンと塩素イオンに分解され、血液や消化液などの体液に溶けたり、あるいは他の成分と結合した形で存在しながら、生きていくための機能を果たします。
主な働きとしては「細胞が正常に働けるように保つ」「消化液を作りだす」「酸性、アルカリ性のバランスを保つ」「神経伝達を担う」「栄養素の吸収を助ける」「熱を発生させる」が挙げられます。

極度のミネラル不足で何が起こるか

高血圧を誘発する
極度の血圧低下により、生命維持に危険を感じた脳が腎臓から血圧を上げるホルモンを出すよう指令を出す
血圧が上がる要因に
交感神経が活発化する
常時ストレス状態となり、末梢神経で循環不良が起こる
代謝不良や免疫力の低下を招く
その他に
・新陳代謝の衰え
・食欲の減退、体力の低下
・筋肉疲労、けいれん、無気力
など