健康にいいこと通信11月号 医者いらずで長生き!?万能調味料“みそ”の秘密

酵母が生きて、熟成を続ける 古式室蓋製麹法で作る無添加の生味噌

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熊本県山鹿市
卑弥呼醤院(株式会社内田物産) 内田 博之さん

 味噌は、日本の食文化を代表する発酵食品。味噌汁をはじめ、和食には欠かすことのできない材料と言えます。古くから「手前味噌」の言葉がある通り、少し前までは味噌を仕込む家庭も多かったことでしょう。今回は、今では貴重な昔ながらの製法で麹を仕立て、無添加の生味噌を作り続けている「卑弥呼醤院」を訪ね、内田博之さんに味噌作りにかける思いなどを伺いました。

1.〝手づくり〟に欠かせない室蓋の中で1〜2日。常温で水分を飛ばして麹を締める「枯らし」の工程を経て、カチカチに固まった麹ができていました。2.発酵が進んで、菌糸に包まれた米。真っ白な花が咲いているかのようです。3.蒸した米や麦は、何回かに分けて丁寧に種麹を混ぜていきます。4.汗だくで仕事を続ける内田博之さん。「自然の状態で作りたいので、工場内はいつも常温。冷房や暖房も使いません」とのこと。5.炊いた大豆に麹を加え、木桶で寝かせてゆっくりと熟成させます。

全国でも貴重な伝統の製法で丁寧に作る〝手づくり〟の味噌

「使う道具も製法も、ずーっと前から変わっていないんですよ」と話すのは、内田博之さん。江戸時代後期、熊本県山鹿市鹿本町にて酒造所として創業し、大正12年(1923年)から味噌や醤油、麹などの製造、販売を始めた内田物産の代表取締役です。
内田さんは、卑弥呼醤院の屋号を掲げ、昔ながらの製法である「古式室蓋製麹法」を用いた味噌作りを守り続けている職人でもあります。「古式室蓋製麹法」は木製の室蓋(※1)を使って麹(麦こうじ)や糀(米こうじ)を作る製法のこと。良質なこうじが仕上がる一方、職人には経験に基づく技量が求められ、大変な手間が掛かる難度の高い製法とされています。内田さんは、「味噌作りにおいて〝手づくり〟とうたうことができるのは、『厳選した国内の素材を使い、全量を室蓋で作った麹を使ったもの』だけなんです(※2)」と教えてくれます。続けて「今、全ての麹を室蓋で作っているところは国内にほとんどありません」とのこと。
「味噌や醤油は生き物ですから、細心の注意を払って作るもの。私にとっては機械で大量に作るものではないんです。それに、昔ながらの製法を絶やしたくありません。効率はものすごく悪いのですけど」と苦笑いしながらも、内田さんはきっぱりとした口調です。その根底には、先代から受け継がれた「安心して食べられる美味しい味噌や醤油を、地元のお客さんのために作りたい」との思いも込められているようです。

※1 :製麹する際に使用する木製の箱。麹蓋(こうじぶた)とも呼ばれる ※2:全国味噌工業組合連合会の公正競争規約による

地元産の原料を用い木製の室蓋で麹を育てる

大豆、米や麦などに麹と塩を合わせ、寝かせて作る味噌。卑弥呼醤院の味噌作りは、地元熊本県産の米や大麦を蒸し、麹を作る仕事から始まります。訪ねた日に蒸した量は、米が180㎏、麦が260㎏。蒸し上がったら湯気の立つ米や麦の中に手を入れ、塊を潰すようにほぐしながら全体の温度を下げていきます。力を入れて底の方から返すようにかき混ぜ続けるため、内田さんたち蔵人は汗だくになっての作業です。40度ほどに下がったところで種麹を振って混ぜ、すぐに木桶に移して石室で寝かせます。ここまでが午前中の作業。38度ほどに保たれた石室の中で、麹菌が繁殖していきます。
その後、木桶の中で発酵が進む麹菌の勢いを抑えるため、内田さんは夕方と深夜に石室内の温度と湿度を調整し、製麹の状態を一定に保つ手入れを行っています。翌日の朝、室蓋に移してさらに1〜2日麹の管理を続けた後、常温で寝かせます。水分が飛んで固まったら麹の完成です。仕込みから麹の完成までは約3日。工場内には、室蓋が所狭しと積み上げられていました。「大正時代に作られた室蓋もあり、修理しながら使っています。菌が棲み着いているので、独自の香りと味が出てくるんです」と内田さん。

6.「卑弥呼醤院」で作られている17種類の味噌。色合いもさまざまで、勢揃いすると圧巻。7.内田さんからは、味噌作りにかける熱意が伝わってきます。8.伝統の製法を用い、地元産の原料を使って無添加で作られている生味噌。

無添加の生味噌の味噌汁は素材を感じさせる味わい

地元産の大豆は、麹と合わせる前日の夕方から炊き始めます。味噌の色味や風味を左右する大切な工程です。内田さんは、蒸している間中釜の横に立ち、手作業でアクを丁寧にすくいとり続けます。「大豆に渋みやえぐみが出ないようにするためです」と教えてくれます。また、大豆のうまみがなくならないよう、半炊き、半蒸しにするのがポイントだと言います。深夜1時に火を止めて流水で冷やし、翌日再度蒸しあげてすり潰した大豆に、塩を加えておいた麹を混ぜます。この時の配合の割合で、味噌の種類が変わってくるのだそう。木桶に詰めて3日ほど寝かせた後、さらに醸造室で寝かせます。口にすることができるのは、白味噌の場合で3カ月後です。
麦、米、合わせはもちろん、農薬を使わず有機肥料で栽培された大麦や大豆を使った〝からだに優しいあわせみそ〟などにも力を入れる「卑弥呼醤院」の味噌。全ての商品が、保存料や酸化防止剤、甘味料や漂白剤などを使っていない無添加です。加えて熱処理も行わないため、酵母がずっと生きたままの生味噌で、熟成が進んでいくのが特徴です。
取材の最後にいただいた味噌汁の味は、普段食べている味噌とは全く違い、後味がすっきりとしていて、味噌の素材を感じさせる味わいでした。昔から変わらない製法を目の当たりにして、私も手づくりに挑戦してみたくなりました。

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■卑弥呼醤院(株式会社内田物産)
熊本県山鹿市鹿本町来民1586 ☎0968-46-2123
営業時間/8:00〜18:30(茶房 さくらさくらは10:00〜17:00)
http://www.misosyouyu.com

選んだ味噌で、味噌汁を味見

■茶房 さくらさくら
店舗2階には、古民具や生活雑貨が並ぶ「蔵」と、自慢の味噌を味わえる「茶房 さくらさくら」があります。茶房では、15種類から選んだ味噌をお椀一杯仕立ての味噌汁で味わえると人気。手づくりの甘口金山寺味噌などが付くおにぎりや、地元の伝統料理のお姫様だんご汁、甘酒なども楽しめます。

体にいいことたくさん! 味噌のパワーに迫る!

日本人にとって、昔から身近で馴染み深い食材の一つ「味噌」。味噌には実に驚くべき様々な効果・効能があり、私たちの健康を身体の中から支えています。今回は、味噌の利用や効能を調べている専門家の方々にお話を伺い、味噌の秘密を紐解いていきます。

味噌についてお話をうかがった方々

広島大学名誉教授(理学博士・医学博士)渡邊敦光さん
熊本大学理学部卒。九州大学大学院博士課程理学研究科修了。広島大学原爆放射能医学研究所助手を経て、1996年教授に。著書に『味噌力』(かんき出版)、『味噌をまいにち使って健康になる』(キクロス出版)、『味噌大全』(東京堂出版)等。
株式会社ミソド代表取締役MISODOさん(本名:藤本智子)
2011年よりミソガールとして、味噌の普及啓蒙活動を開始。2012年「みそソムリエ」取得。2014年『ジャパン味噌プレス』創刊。2016年株式会社ミソド設立、代表取締役。著書に『みそまる』(宝島社)、『みそまる』(主婦と生活社)等。

「畑の肉」と呼ばれる豊富な栄養成分

味噌の主原料である大豆は「畑の肉」といわれるほどたんぱく質が豊富で栄養価の高いものですが、大豆が発酵して「味噌」になると、大豆にはないアミノ酸やビタミン類がたくさんつくられ、より栄養価が高まります。
味噌は、たんぱく質・炭水化物・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維がバランスよく含まれているほか、麹の酵素によって原料が分解されているので消化吸収もよく、赤ちゃんからご年配の方まで安心して食べられる万能食品です。
また、「ごはんと味噌汁」はお互いにないアミノ酸を補い合う〝名コンビ〟。具だくさん味噌汁にすれば、だしや具材の栄養価も加わり、立派な主菜にもなります。また、トマトやチーズ、ベーコンなどを具にすれば、洋風の味噌スープにも。パン派の方も、もう一品「味噌汁」を加えるだけで、バランスのよい食事になります。

日本人の長寿を支える味噌の効果・効能

「味噌は医者いらず」と言われているくらい、昔から日本人の健康を支えてきました。最近、ようやく味噌の効能が疫学的・動物実験で明らかになり始めていて、生活習慣病や肥満、便秘などから体を守ってくれることがわかっています。
また、味噌には美肌を維持するために必要な良質の植物性たんぱく質とビタミン類がたっぷり含まれているほか、味噌に含まれる「遊離リノール酸」がメラニン合成を抑制してくれるので、しみ・そばかすを予防し、美白効果も期待できます。さらに、味噌に含まれるサポニンやメラノイジンは、細胞の酸化を防ぎ、老化防止にも一役買ってくれます。

でも気になる…、味噌の塩分について

味噌汁一杯分の塩分量は、
わずか1.2g程度!

味噌汁の塩分を気にして控えている人は多いかもしれませんが、味噌汁一杯分の塩分量は約1.2g~1.5g程度で、インスタントラーメン(5.6g)等に比べると、かなり少ないです(表参照)。当然、摂取量に留意する必要はありますが、塩分自体は体にとって不可欠なもの。毎日一杯の味噌汁を飲んで、健康増進に役立てましょう!

知っていますか?“味噌”のこと

「味噌」は、伝統的な発酵食品として古くから
日本人の健康を支えてきました。
私たちが炊き立ての白いごはんと温かい味噌汁に“幸せ”を感じるのは、
日本人のDNAに味噌が染みついているからかもしれません。
全国津々浦々、風土や環境、製造方法によってさまざまな
個性豊かな味噌がつくられています。
味噌の基本をマスターして、もっともっと「味噌生活」を楽しみましょう!

日本古来の伝統食 健康発酵食品「味噌」

江戸時代に刊行された、食品を医学的に解説した『本朝食鑑』には、味噌は薬のように書かれています。また、「味噌汁は医者殺し」「医者に金を払うよりも味噌屋に払え」「味噌汁は不老長寿の薬」「味噌汁は朝の毒消し」「味噌汁一杯三里の力」など、〝味噌が体にいい〟ことを表したことわざがたくさん誕生しました。このように、味噌は日本の風土に適していて体に良いものであったため、廃れることなく日本人に愛されてきたのでしょう。
 食の欧米化や味噌汁に対する塩分の誤解などもあり、国内の味噌消費量は40年前の約半分に減少していますが、近年は発酵食品ブームも追い風となり、味噌汁のよさが見直されています。巷では、味噌汁の関連書籍が続々出版されているほか、テレビや雑誌で味噌の特集が組まれることが増えています。
 味噌はどんな食材とも相性がよく、変幻自在にアレンジできる万能調味料。煮物や炒め物、味噌漬けのほか、カレーやシチューなどの煮込み料理のコク出しにも欠かせません。また、「塩の代わりに味噌」を使えば、驚くほど深みが出て味が整うだけでなく、栄養価も高まり一石二鳥です。

若い女性も注目する スーパーフード

近年、「発酵食品」が注目されていることもあり、健康志向・美意識の高い若い女性たちからも味噌は人気です。自家製味噌を作る教室はどこも大好評で、さらに味噌をテーマとしたレストランや居酒屋もここ数年で多数出店しており、注目の高さが伺えます。「スーパーフード」と称されるさまざまな食品がもてはやされていますが、おいしくて手軽に手に入る「味噌」を活用しない手はありません

原料、色、味、地域等でさまざまな味噌

味噌の原料は、大豆と麹と食塩のみと、とてもシンプルです。「麹」とは、穀物に「麹菌」というカビの一種を繁殖させたもので、麹の原料に米を使えば「米味噌」、麦を使えば「麦味噌」、大豆を麹にすると「豆味噌」になります。日本で食べられている約8割は米味噌です。
 一般的に見た目で白っぽいものを「白味噌」、赤っぽいものを「赤味噌」と呼びます。原料の処理方法や配合にもよりますが、一番影響するのは熟成期間。熟成期間が長くなるほど赤く(赤褐色)なります。白味噌はまろやかですっきりとした甘さがあり、赤味噌はコクとうまみが増して、奥深い味わいになります。
 また、「甘味噌・甘口味噌・辛口味噌」というように、味によっても分けられますが、辛さ加減は食塩の量と、もう一つの決め手は「麹歩合」(米味噌・麦味噌)です。「麹歩合」とは、主原料の大豆に対する米や麦の比率のことで、塩分が一定なら麹歩合が高いほうが甘口になります。 また、生産される場所により、その土地の名称がつけられています(下図参照)。

全国の味噌を紹介します!