健康にいいこと通信5月号 油なのに太らない!?いま話題の“えごま油”

無農薬で栽培した「えごま」を低温圧搾法で搾る 体に良い“えごま油”

file12

熊本県菊池郡
菊池えごま生産研究会 会長 上村 幸男さん

近ごろ相次いでテレビ番組で特集されるなど、注目が集まっている〝えごま油〟。シソ科の一年草である荏胡麻の実を搾って採れる「えごま油」は、日本では古くから神仏に供える灯火を灯すための灯明油に用いられてきましたが、最近は、体に良い食用油としての評価が高まっています。今回は、農薬を使わないえごまの栽培に取り組み、製造・販売も行う『菊池えごま生産研究会』の上村幸男さんにお話を伺いました。

えごまとえごま農家さん

〝えごま油〟の良さを知り家族の健康のために栽培を決意

「栽培5年目となる今年は、昨年より栽培面積を2倍に増やす計画なんです」と、柔和な表情で話す『菊池えごま生産研究会』会長の上村さん。農業者を経て、農業県である熊本のJA(農業協同組合)で要職を務められてきた方です。その間に芸能人の志村けんさんとの出会いがあり、「えごま油の素晴らしさを教えていただいた」ことがきっかけで、退職後に菊池郡内の農家に声を掛け、えごまの栽培に取り組み始めました。

上村さんは、「私たちが栽培して作るえごま油を毎日の暮らしに取り入れることで、まずは家族や近所の人たちに健康になってもらいたいと思ったんです」と、えごま栽培への思いを話します。そして、「日本人は、寿命は長いものの病気を抱えている人も多いでしょう。重要なのは、健康寿命ですよね。食べ物と健康は繋がっているのですから、私は、命を作る食べ物を大切にしたいと考えてきました。加えて今、一般に出回っている酸化しやすい油の質に疑問を持っていたことも、えごま栽培を始めたきっかけです」と続けます。

初年度は、3人の有志で遊休地を利用して栽培に挑戦。収穫した実を搾った油を調べたところ、酸化値が低く、α-リノレン酸(オメガ3系)を豊富に含有する良質な油であることが分かりました。その結果を受けて改めて生産者を募り、少しずつ栽培面積を拡大。平成28年に設立した『菊池えごま生産研究会』の会員は現在15名になり、今年度は約5haでの栽培を予定しています。

無農薬栽培したえごまの実を低温圧搾製法で油に

上村さんは、「えごまは6月下旬に種を蒔き、育てた苗を7月下旬に畑に定植します。その後、11月ごろに始まる実の収穫までは、成長を眺めるだけ(笑)」と教えてくれます。栽培期間中は除草作業以外の手間が掛からないため、年配の生産者にも育てやすいのがメリットだそう。9月には白く小さな花を愛でる集まりを開くなど、生産者同士の交流も楽しみの一つになっているそうです。

安心して使ってもらえる油に仕上げるため、えごまの栽培時には、農薬を使わないことを全会員が遵守。会員たちで作る栽培暦に基づいて栽培することなども取り決めています。また、えごま栽培用の有機肥料を使うこともルールとしています。「厳しく定めた自主ルールを全員で守ることが良い商品作りにつながり、信頼につながっていくと思っています」と、上村さんはきっぱりとした口調です。

えごまの実には、α-リノレン酸が多く含まれ、ビタミンE、β--カロテン、ポリフェノールなどの含有量も豊富です。α-リノレン酸は、体内では生成することができない必須脂肪酸で、体内でDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)に変化します。この物質は老化や生活習慣病、認知症などの予防効果が期待できるとされています。大事なのは、収穫時や実を搾る際に熱を加えないこと。「実に熱が加わると酸化してしまうからです。以前は、機械の熱が伝わらない手刈りの方がいいと思っていました。しかし、昨年コンバインでの収穫方法を変えてみたら、より質の良い実を収穫することができたんですよ」とのこと。試行錯誤を重ねていくうち、どんどん品質が向上しているそうです。

えごま油の圧搾方法

3ヵ月ほどで体調が変化したと家族や知人から嬉しい声が届く

丁寧に収穫した実は、毎年1月に地元の製油所『肥後製油』で、非加熱の低温圧搾製法を用いて搾ります。製油所では、えごまの酸化値を測定し、基準をクリアしたものだけ使用するという徹底ぶり。

上村さんは自らが手掛けたえごま油を、「爽やかで、すーっと体の中に入っていく感じ」だと言います。「えごま油は薬じゃないから、病気は治りませんよ」と前置きしながら、「1日に約2gを毎日摂取して、3ヵ月ほどすると体調に変化が出てくる人が多いようです」とのこと。家族や知人からは、「便秘が改善された」「血糖値が下がった」「痩せた」などの嬉しい声が寄せられているそうです。

インタビュー写真上村幸男さん
菊池えごま生産研究会会長。畑作農家を経て菊陽町農協の青年部長に推され、以降、JA菊池で直売所「きくちのまんま」の開設などに携わる。熊本県経済農業協同組合連合会会長として、熊本県統一のブランドマーク作りなどを通して県内の農家を牽引。退職後にえごま栽培を始める。

無農薬栽培の国産えごまを使用

きくちのえごま油
45g/1,728円(税込)

熊本県菊池郡菊陽町と大津町のえごま生産者が集まり、平成28年に設立した『菊池えごま生産研究会』によって商品化。無農薬で栽培したえごまの実を、大津町にある『肥後製油株式会社』が低温圧搾製法で搾っています。酸化値が低く、α-リノレン酸を多く含んでいる希少な油です。

菊池えごま生産研究会
TEL.096-288-6250

きくちのえごま

α-リノレン酸を豊富に含む えごま油で代謝を活発に

数ある食用油の中で、なぜ〝えごま油〟が体に良い油として注目されているのでしょうか。福岡県みやま市の工藤内科の工藤孝文先生にその理由を教えていただきました。

えごま油の圧搾方法

体に必要なオメガ3系脂肪酸

シソ科の植物であるえごまの実からとれる〝えごま油〟には、オメガ3系脂肪酸のα-リノレン酸が豊富に含まれています。脂肪酸とは脂質(油)のことで、炭水化物、たんぱく質と並ぶ人間の体にとって大切な3大栄養素の一つです。脂肪酸は、人間の体内で合成することができるものと、合成することができないものがあります。合成できない脂肪酸が必須脂肪酸で、人間の脳や心筋などにとって大切な栄養素でありながら、体内で作ることができないため、食事を通して摂取する以外に方法はありません。その一つが、オメガ3系脂肪酸のα-リノレン酸です。

近年、α-リノレン酸が注目されている理由に、体内でDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)に変化することがあります。このDHAやEPAは、植物性プランクトンを摂取するサンマやイワシといった青魚に多く含まれ、中性脂肪やコレステロールの低下効果、また、アトピーやアレルギー、がんの予防効果が期待できるとされています。

工藤先生は、オメガ3系脂肪酸の代表的な働きとして、血流の改善を挙げられています。「摂取することで血管をしなやかにし、血流の流れをスムーズにする効果があります。血栓ができにくい状態にすることで、心臓や脳の疾患リスクが軽減されるわけです。さらに、血圧やコレステロールを下げるなどの効果が期待でき、生活習慣病の予防につながる栄養素と言えます」と説明します。

オメガ3系脂肪酸にはダイエット効果も

また、オメガ3系脂肪酸は、ダイエットの効果も期待できると工藤先生。「オメガ3系脂肪酸は、胃や腸に到達すると体温を上げるセンサーのスイッチをオンにする働きを持っています。スイッチが入ると、そのシグナルを受けた体内の体温調整細胞が活性化するのです。体温が上がると代謝が活発になり、脂肪を燃焼しやすくなります。体脂肪や体重の増加を抑制するのに有効であるといえます」とのこと。

体温が高くなると酵素の働きも活性化するため、新陳代謝もアップ。これらの効果から、脂肪をためにくい体質になると言えるのだそう。エネルギーを燃焼しやすい体質になることは、太りにくい体質への変化が期待できるということ。「油を摂取すると、脂質による刺激によって満腹ホルモンと言われるペプチドYY、GIP(インクレチン)を分泌しやすくなります。そして摂取後の腹持ちもよくなるため空腹を感じにくくなり、間食や食べすぎの予防にもつながるんですよ」と工藤先生。また、オメガ3系脂肪酸は、血液中の中性脂肪の軽減に有効な栄養素で、肝臓に届くと中性脂肪の合成抑制、血管拡張などの働きを持つそうです。

〝えごま油〟で効果的にα-リノレン酸を摂取

体にさまざまな良い効果をもたらすことが分かってきたオメガ3系脂肪酸。工藤先生は、効果的に摂取できる食品は〝えごま油〟と〝アマニ油〟と話します。

「DHAやEPAは、その元となるα-リノレン酸がなければ、作り出すことができません。つまり、α-リノレン酸を体に取り入れることがとりわけ重要だと言えるのです。その手段の一つとして、α-リノレン酸を豊富に含んでいる〝えごま油〟や〝アマニ油〟の摂取があります」。食品の中でもα-リノレン酸の含有量が多いのが、この2つの油なのだそうです。例えば、α-リノレン酸の含有量が多いと言われるクルミは100gあたり900mg。一方の〝えごま油〟は5万8000mg、〝アマニ油〟は5万7000mgとされています(数値はアマニフォーラムHPより)。

“えごま油”は、加熱する料理には使わないのがポイント!1日2gほどを、そのまま料理にかけたり、混ぜたりして摂取しましょう。

良質な油を選び、1日2gを目安に

では、1日にどの程度の量を摂取すれば良いのでしょうか。
工藤先生は、「小さじ1杯、約2gで良いでしょう」と説明。ただし、摂取の際には以下のことに注意してほしいそうです。

「オメガ3系脂肪酸は熱に弱いため、炒め物や揚げ物、レンジで加熱する料理より、サラダやマリネ、カルパッチョ、ジュース、ドレッシングに混ぜるなどして、そのまま摂る方が効果的です。また、酸化のスピードも速いため、遮光性が高く、早く使い切ることができる容量のものを選びましょう。保存は、光の当たらない冷暗所がベターです」。

加えてもう一つ。「たくさん摂っても、痩せるスピードが早くなるわけではありません。過剰な摂取は、吐き気や下痢などを引き起こす可能性があります。これは、食品からではなく、サプリメントで摂る場合も同様です。提示された摂取量の限度を守りましょう」とアドバイスをいただきました。
体に良く、摂取するだけでダイエット効果も期待できる〝えごま油〟。α-リノレン酸は、熱を加えずに製油された〝えごま油〟に多く含まれています。
より効果を求めるなら原材料の産地や栽培方法、製油法などにも気を配って選びたいものです。

今回話を伺ったのは… 工藤内科 工藤孝文先生

くどう・たかふみ。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。帰国後、大学病院、地域の基幹病院を経て、現在は、福岡県みやま市の工藤内科で地域医療を行っている。ダイエット外来・糖尿病内科・漢方治療を専門とし、『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)減量外来ドクター、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)漢方治療評論家・肥満治療評論家など、メディア出演多数。日本内科学会、日本糖尿病学会、日本東洋医学会、日本肥満学会、日本抗加齢医学会、日本女性医学学会、日本高血圧学会、日本甲状腺学会、小児慢性疾病指定医。著書に『たった7秒で座るだけダイエット』(晋遊舎)ほか。

オメガ3について先生に聞くインタビュー
ダイエットに興味のある方は必読! 工藤先生の著書・監修書の中から2冊をご紹介
認知症を防ぐ! えごま油レシピ
  • 著・市瀬悦子
  • 発行・ワニブックス
  • 1,300円(税別)

料理研究家によるヘルシーレシピが盛りだくさん。えごま油を効果的に摂取するための調理ポイントや、魚や肉との組み合わせ方も分かりやすく紹介されています。えごま油の特徴や効能、使い方も知ることができます。

緑茶コーヒーダイエット
  • 著・工藤孝文
  • 発行・日本実業出版社
  • 1,188円(税込)

工藤先生自らが考案して実践し、−25kgに成功したダイエット法を解説。飲むだけでお腹の脂肪を落とし、どんどんやせられる緑茶コーヒーの基本や、やせる理由、飽きずに続けられるティー×コーヒーアレンジレシピなども掲載されています。

もっと知っておきたい“油”のこと

毎日の調理に欠かせない食用油。原材料となる種子によって、さまざまな油が製造されています。前ページで紹介したえごま油もその一つ。ただし、製造の工程により、含有している栄養価や、色、香りが異なっていることをご存知でしょうか?
ここでは、「きくちのえごま油」の製油を行なっている「肥後製油」の髙木さんに、食用油の基本を教えてもらいました。

お話を聞いた人
肥後製油代表取締役 髙木浩二さん

有色の油の選択を

日本では、第二次世界大戦後まで伝統的な製法で造られていた食用油。そのため、色は種子の色によって有色でした。しかし、ドレッシングやマヨネーズの加工用油として用いるため、無味無臭で透明な油が求められるようになったのです。現在主流であるサラダ油が無色透明なのは、精製段階で薬品による脱色や脱臭が行なわれているからです。そして、これらの工程を経るうちに、種子が含んでいた有効な成分も失われてしまいます。また、効率よく安価に大量生産できるよう、種子から油を抽出する際は溶剤のノルマルヘキサンを用い、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)で簡単に不純物を除去する製造法も開発されました。

有色の油は、種子を圧搾機などで搾り、湯洗いして不純物を取り除き、ろ過して造られます。油の完成までに時間が掛かり、大量生産ができないことが難点ですが、〝足し引き〟が少ないため、種子の持つ元々の栄養価を含んでいる油といえます。一度、食用油の色に注目してみてはいかがでしょうか。

油の特性を知って、上手な使い分けを!

食用油は含有する脂肪酸によって、主に植物性の不飽和脂肪酸、動物性の飽和脂肪酸の2つに分類され、さらに脂肪酸の特徴ごとに細分化されます。特定の油に偏るのではなく、これらをバランスよく摂取することが重要です。

悪玉コレステロールを減らす「不飽和脂肪酸」オメガ6系脂肪酸・酸化しにくく、老化を防止「不飽和脂肪酸」オメガ9系脂肪酸・主に動物性の油で、常温で固まる飽和脂肪酸 血管を強くする「不飽和脂肪酸」オメガ3系脂肪酸

油にまつわるQ&A

サラダ油って何ですか?

サラダ油は、精製の工程で薬剤などを用いて脱色、脱臭などが行われた油の総称です。なたねや大豆、米、トウモロコシといった9種類の植物性の種子を搾って造られており、加工品の原料などとしても用いられるため、無味無臭、無色であるのが特徴です。また、精製の工程において、色や匂いなどとともに、体に有効とされる不飽和脂肪酸なども除去されています。

酸化させない保存法はある?

良質な油は、酸化しやすいという欠点があります。酸化すると、体をさび付かせる活性酸素を発生させるようになってしまうため、できるだけ酸化させないように保存したいものです。油は直射日光や空気、熱などで酸化が進行します。冷暗所に置くか、瓶にアルミホイルなどを巻いて光などを遮断して保存し、開封後は2〜3カ月で使い切ることを目安にしましょう。

加熱しない方がいい?

食用油を調理に使う際に気をつけたいのが、加熱です。特にオメガ3系脂肪酸は熱に弱いため、炒め物や揚げ物といった100度を超す料理に使うと酸化してしまうので注意しましょう。えごま油やアマニ油は、そのまま常温で摂取したいものですが、調理直後の料理(80度程度)に混ぜるのはOKです。短時間での炒め物などには、オメガ6系脂肪酸のごま油やグレープシードオイルを。加熱料理には、酸化しにくいオレイン酸を含むオメガ9系脂肪酸のオリーブオイルやなたね油がおすすめ。